流浪の歯科技工士・王譯平・・・老馬之智

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zoom RSS 若い女性歯科医師による咬合再構築の一症例

<<   作成日時 : 2015/02/18 13:22   >>

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桂菊(グイジュウ)先生は3年前に医科大学を卒業され、半年ほど前から、北京の宇宙開発地区にある中国人民解放軍医院の歯科部門に勤務されています。
ほとんどの患者さんは軍や政府機関に関係がある人達とその家族だそうです。
桂菊先生に初めてお会いしたのは20日ほど前になります。
医院から車で約1時間半の距離にあるLラボの私のもとへ相談に来られました。
咬合再構築を行う症例に対して、咬合をどのように決定すればいいのか、また、補綴物はどのような設計にすればよいのかなどのアドバイスが欲しいとのことでした。

Lラボには若い先生方がときどき相談に来られますが、ほとんどが女性歯科医師の方々です。
患者さんも一緒に連れて来られることもあります。
ドイツ・カボ社のフェースボーの使い方や半調節性咬合器プロターevo7の操作法を教えて欲しいと来られた先生もいます。
私の勝手な思い込みかもしれませんが、中国では、歯科医師にしても、歯科技工士にしても、女性の方のほうが優秀で、勉強熱心な人が多いように思います。

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桂菊先生です。

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今回、相談を受けたケースです。
上顎の前歯部を連結してブリッジとし、臼歯部はキャストパーシャルの可撤性義歯にしたいとのことでした。

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桂菊先生の支台歯形成や印象は、医科大学卒業後3年間のキャリヤしかないとは思えない素晴らしいものでした。
支台歯は丁寧に研磨され、ブリッジの挿入方向に対する側壁の傾斜角度も正確に設定されていました。
また、歯肉圧排後に印象されたマージンラインも明確でした。
このような支台歯形成や印象を中国で見ることができるとは思っていませんでしたので、正直なところ驚きました。

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フェースボー採得後に、垂直咬合高径を維持した状態で水平的な顎位の決定が行われます。
その際、私が開発したジョウリレーター(顎位記録装置)を用いました。
精密にゴシックアーチを描記して中心位を求め、その後、チェックバイトが採得されました。

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中心位のチェックバイトをもとに、咬合器に模型を再装着します。

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ブリッジフレームのワックアップが終了したところです。

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ワックスアップされたブリッジフレームをダブルスキャンして、CADによる操作を行います。
セメントスペースは20μに設定しています。
これらの操作は下記ページでもご紹介しました張玲玲(ジャン・リンリン)が担当しました。
http://xiaolong1017.at.webry.info/201410/article_1.html

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EOS社の3Dプリンター(レーザーシンタリング造形法)によって、コバルトクローム合金によるメタルフレームが造形されたところです。

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その後、ブリッジフレームの適合調整と形態の修正が終わったところです。
スキャンに先立ち、歯型の切端部や隅角部をあらかじめワックスで薄くリリーフしたことによって、適合調整の時間が省かれ、最終的に精密な適合が得られました。

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金属焼付ポーセレンブリッジが完成したところです。
このブリッジの製作は、下記のページでもご紹介しました私の助手の侯晓雯(ホウ・シャオウェン)が担当しました。
http://xiaolong1017.at.webry.info/201412/article_1.html

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桂菊先生によるブリッジのセメンティングです。

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臼歯部の可撤性義歯は義歯部によって製作されました。
この症例の場合も、総勢約10名の技工担当者によって、分業による製作が行われました。
分業で製作される場合、各ステップ終了後のチェック、および、引き続いて行われる作業に対する適格な指示と指導が重要になります。
最終的な咬合のチェックや修正に関しては、私自身で行いました。

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ブリッジも可撤性義歯もほとんど調整の必要なくセットされました。
装着後の患者さんの笑顔です。

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補綴物が口腔内に装着されるまで、合計3回、桂菊先生のチェアーサイドで立ち合い、先生の補佐を行いました。
中心咬合位の決定とチェックバイトの採得、前歯ブリッジの試適と臼歯義歯部のための印象採得、最終セット時の調整など合計3回です。

装着完成後、桂菊先生と患者さんの嬉しそうな笑顔を目にしたとき、またひとつの仕事が終わったという喜びと心の安らぎを感じたものです。
歯科技工士でよかったと幸せを感じるひとときです。
日本にいようが、中国にいようが、この喜びに変わりはありません。

以下は、10年前に日本顎咬合学会誌から依頼を受けて執筆した小論文の「後書き」です。

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35年という歳月は、人にとってけして短いものではない。
そのはずなのに、その間、歯科技工士として何をし、何を成し遂げたのだろうと考えると、思い浮かぶことがあまりにも少ない。
高い壁の前で立ち止まり、諦めてその場から立ち去ってしまったことがいかに多かったことか。
その都度、挫折感にさいなまれ、まるで、手が届かない高い棚の引出しに自分の大切なものを置き去りにされてしまった子供のように、未練と焦燥感をいつも感じ続けてきた。

残された時間が消えないうちに、棚の引出しから誰もが触ることができる場所へ出しておきたい。
そうすれば、いつかは誰かの目に留まり、大きく育てられるかもしれない。
そのような願いも込めながら、ジョウリレーター(顎位記録装置)をこの世に送った。
最初の試作品を自作してから、すでに約30年の歳月が流れている。

昨日も若い歯科技工士仲間から電話が入った。
咬合再構成のケースで臼歯部はすべてメタルによる咬合面だという。
メタル試適の際に、歯科医師から「咬合が合わないのでメタルを最初から再製して欲しい」と言われた。「同じ患者さんで2回目です」と彼の声が電話の向こうで震えていた。 
メタルフレームを完成するまでに何週間もかかり、その労力がわかるだけに胸が痛くなる。
取引を続けようと思えば、再製料も取ることはできない。
その間の収入は途絶え、幼稚園児と小学校低学年の2人の子供を持つ彼の生活は、経済的に圧迫される。
  
セントリックバイトが採得される際、1mm前方に偏位すると、アンテリア・ガイダンスの誘導によって、大臼歯部では約0.8〜1.0mmの咬合挙上が生じる。
つまり、 約0.8〜1.0mm高いクラウンが製作されることになる。
それに加えて、左右のいずれかにも偏位して咬合採得されていたとしたら、その結果は悲惨なものである。

不器用なことを誰よりも自覚しているだけに、勘や推量で技工をすることには、昔から抵抗を感じていた。
自分の感性だけを頼ったテクニックの場合、いつかは自分の能力に限界を感じ、目の前の高い壁に悩むことになる。
そのことを何回となく経験してきただけに、若いこれからの歯科技工士仲間には同じ苦しみを味あわせたくない。
科学的な裏付けと理論が伴わないテクニックは、人を不幸にする。
その考えは今も変わらないし、これからも変わることはないだろう。

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私が書いた上記論文の内容は、「咬合学理論と臨床実践」という専門書を執筆された北京医科大学の韓科教授によって中国語に翻訳されました。
日本では日の目を見ることもなかった小さなジョウリレーター(顎位記録装置)も、中国では、特にインプラントを含んだ咬合再構築をするうえで、無くてはならない私の片腕となってくれています。

中国では明日、春節(旧正月の元旦)を迎えます。
今日は日本でいう大晦日にあたります。
ラボは10日間の休暇に入りました。
ラボに勤める若い人達は皆、すでに父母が待つ故郷へ帰ってしまいました。
大晦日恒例の花火があちこちで打ち上げられ、その音が混じり合い、響きあっています。
中国の人達もまた、平和な佳い新年を迎えることを願っています。



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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ご隠居のご活躍、自分のことのように嬉しく感じます。今に思えば何故あれほどに咬合を学んだのか、補綴を学んだのか、歯科医学を学んだのか、不思議にも感じます。思い返せば、そんな歯科技工士を必要としてくれた歯科医師の存在があったからだと思います。そして、その技術に見合った対価も支払って頂きました。もはやそんな技術を求め、対価を支払ってくれる歯科医師を、日本で探すことの方が困難なことなのです。今では学の長から言論統制さえされる業界となりました。私は日本で眼を見開き、朽ちていく覚悟を決めました。ご隠居の知識が充分に生かされる地での益々のご活躍を祈っております。
としじい
2015/02/18 14:39
こんにちは
大変興味深く読ませていただきました。
後書きを書かれていた小論文、先ほどネットにあったので拝見させてもらいました。今というかずっと咬合再構成におけるバイトに悩んでいるところでしたのジョウリレーター試してみたかったです。
good358
2015/02/18 16:04
としじいさんへ
コメントありがとうございました。
1970年代にナソロジーによる咬合理論がアメリカ西海岸から入ってきた頃の日本の情況を思い出します。
歯科医師の先生方もスタディーグループを組織され、咬合について本当に良く勉強されていました。
その影響を受け、お金がない私たちは必死で専門書を読み、試行錯誤しながら知識を得たものです。
活気のある良い時代に歯科技工士になったおかげで、こうして今も歯科技工の分野に身を置くことができています。
王譯平
2015/02/18 22:31
good358さんへ
ネットで私の小論文を見ていただいたとのこと、ありがとうございました。
ジョウリレーターとそれに関する考え方が先生方の何らかのヒントとなり、また、お役に立つようなことがあれば幸いに思っています。
王譯平
2015/02/18 22:33

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