中国のラボで働く人達は歯科技工士というより単純労働者?

“中国における日本式歯科技工サービス・歯科技工教育の 提供に向けた実証調査”
という報告書 をインターネット経由で読むことができます。
平成25年3月付、株式会社ジーシーによるものです。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/iryou/downloadfiles/pdf/24fy_gc.pdf#search=

現在の中国における歯科技工業界について、実によく調査されて書かれた報告書だと思います。
その中に、次のような文章があります。

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中国には歯科技工士免許制度がなく、従業員の一部しか正規の歯科技工教育を受けていない。特に大手の歯科技工所はコストを下げるために全ての作業を分業化しており、被雇用者である歯科技工士はほとんど何も教育を受けていない。これらの人達は歯科技工士というより単純労働者であり、毎日同じ作業を繰り返して熟練していく。その上、自分が作ったものに歯科医療用生体材料として高度な精密さと品質が要求されていることを理解しておらず、歯科技工物製作を単なる物作りと誤認しており、歯科医療に対する責任感や患者への気配りを持っていないことが多い。
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中国のラボで働く歯科技工士の現状について、誇張されることなく的確な表現で書かれている文章だと思います。
私はこれまで中国において約4年の間、北京、東莞、長沙と3ヵ所のラボで技術指導や技術管理の仕事をしてきました。
その日常の業務をとおして、いつも私が感じてきたとおりのことが書かれているからです。

長沙のKラボは今年7月に開設されたばかりで、まだ十分な設備も人材も揃ってはいません。
Kラボに応募してくる若い人達は少なくはありませんが、その中から歯科技工士としての能力や将来性を感じさせる人を探し出すのは容易ではありません。
これまでも、3人に2人の割合で不合格通知を出しているしだいです。

応募してきた人達には、まず私を含めて3~4人で面談を行います。
そして、性格や技術がKラボに適当だと感じられれば、その日のうちに実技のテストを行います。
つい最近行った実技テストの状況をご紹介します。

応募してきたRさんはポーセレン築盛チームへの配属が志望です。
彼女は24歳ですが、ポーセレン築盛についての経験は約7年とのことです。
歯科技工士の専門学校卒ではなく、ラボで技術を教わっています。
給料は同年齢の人達よりも高額の5,000元(約85,000円)を希望しています。
農業を営んでいる両親と両親に預けている1歳の子供への仕送りが必要なのでしょう。
応募してくる人達はそれぞれの事情をかかえていますが、面談では、プライベートなことには立ち入らないよう注意しています。

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実技テストは経験年数にあわせて難易度を変えています。
Rさんの場合は、給料の要求金額が低くはありませんので、8歯ブリッジの金属焼付ポーセレンでテストすることにしました。
Kラボでも他のラボ同様に分業制で技工物を製作していますので、ブリッジのフレームは金属チームで製作され、、オペークはオペーク担当者によってすでに焼成済です。

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作業用模型は模型チームによって製作され、すでに半調節性咬合器に装着しています。
実技テストは、Kラボで日常行っている作業システムに準じて行います。
Kラボで使用している半調節性咬合器と作業用模型です。
半調節性咬合器はドイツ・ギルバッハ咬合器旧タイプの中国製ジェネリックス版です。

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作業用模型には金属製鞘付のダウエルピンを使用し、歯型の適合状態が肉眼で確認できるようにしています。
単冠のケースを含め、全ての臨床ケースの作業用模型にこの方式を採用しています。

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咬合再構成やインプラントなどを用いた難易度の高い症例にはドイツ・カボ社製のProter咬合器evo5やevo7を使用しています。

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オペーク担当者によって焼成済の実技テスト用ブリッジです。
オペーク表面からの鏡面反射をなくし、乱反射が生じるようなオペーク焼成法を行っています。

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築盛テストの時間は2時間半以内です。
ブリッジの場合は少なくとも3回の焼成が必要ですので、焼成時間だけで約1時間かかることになります。
そのため、築盛に必要な時間は1時間半程度しかないということになります。
中国のラボで働く歯科技工士は、自分の作業用具は誰ひとり持っていません。
仕事上で必要な用具はすべてラボによって貸与されるためです。
そのため、陶材やポーセレンファーネスをはじめ、築盛に用いる用具などのほとんどが過去に用いたものとは異なりますので実技テスト時のストレスはかなりのものだと思われます。
実技テスト時には、私は付き添っているわけではありませんが、どのような築盛方法をもちいているか、また、築盛時に無駄な作業がないかなどをそれとなく観察しています。

Rさんが築盛し、焼成が終わったブリッジです。
このケースの場合は、すべての歯をB3のシェードで指定しました。
金属焼付ポーセレンであるにもかかわらず、内部から生じるしっとりとした明るい色調が感じられました。
かなりの高い技術レベルです。
築盛チームで行う作業は築盛と焼成までです。
その後の形態修正は形態修正チームで行われますので、Rさんの実技テストもこの作業で終わりです。

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Rさんは実技テストに合格し、社長の認可を得てRさんが希望したとおりの給与が決定されました。
現在は、すでに築盛チームに加わり、ジルコニアをベースにした大きな症例の築盛などを担当しています。

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Kラボの築盛チームはRさんを含めて5人になりました。
21歳から24歳までの若い女性ばかりのチームです。
若い女性の感性と作業スピードにはいつも驚かされます。
とても私が出る幕はありません。
分業制の良い点なのかもしれません。

日本のラボでは、20歳前半の若い女性歯科技工士で、何人の人達がポーセレン作業に携わっているだろうかと考えると、日本のラボの実情を知っているだけに胸が痛む思いがします。
日本の若い歯科技工士の人達に、「日本で出来ないのなら、中国のラボへ来て可能性を試してはどうですか?」と呼びかけたい思いです。
悩んでいるだけでは何も始まりません。
行動を起こさなければ何も変わりませんから・・・。

私は来年もまだ、Kラボで技術指導と技術管理の仕事を続ける予定です。
これが今年最後のブログ記事となります。
皆様、どうか良い年をお迎えください。

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この記事へのコメント

段分業
2013年12月30日 09:34
築盛7年はかなりの熟練者です。もっと給料出してもいいのでは。2020年には歯科技工市場は全世界で現在の倍6~8兆円になると予想されます。大量の歯科技工物をどの国の患者にも提供できる値段で供給するためには分業化と機械化(デジタル化)が不可欠です。
 必要なのは日本式教育ではなく全工程の管理者と品質検査を養成することだと思います。
王譯平
2014年01月02日 01:15
段分業様へ

コメントありがとうございました。
中国では経験年数と実力は結びつかないことが多いようです。
ラボでの教育にばらつきがあるからだろうと思います。
経験年数が多くても、その間にどのようなことを学び経験してきたか、また、それがラボにとって有益なものかを見極める必要があります。
Kラボの面接にも8~10年の歯科技工経験者が数人面接に来ましたが、経験年数が多いからといって実力があるともいえませんでした。
また、経験年数が少ないからといって知識や技術が伴っていないわけでもなく、Kラボでも経験年数が3~4年で本ブログ記事のRさん以上の給料を得ている者もいます。

>分業化と機械化(デジタル化)が不可欠です。

おっしゃる通りだと私も思います。
ただ、中国では歯科技工を行っている者のほとんどが無資格者ですので分業化も可能なのだろうと思います。
また、彼らも疑問を持たずに受け入れています。
日本の場合は、専門的な知識や技術を持っている歯科技工士ですので、心理的な面でも受け入れがかなり難しいのではないかと思われます。
そのため、歯科技工の一部の作業に無資格者も参入できるような道をつくるなども必要かもしれません。
王譯平
2014年01月02日 01:17
段分業様へ

>日本式教育ではなく全工程の管理者と品質検査を養成すること

全行程を管理し、品質検査を行ううえでは幅広い知識と技工技術が必要です。
中国でも、知識が不十分で自分で実技をして見せることができない管理者は、その実力を見破られ相手にされなくなります。
幅広い知識と技術を持った管理者を養成するには、日本式教育システムは良いのではないかと思います。
株式会社ジーシーさんの肩を持つわけではありませんが、株式会社ジーシーさんが考えられている日本式教育システムは、現在の中国で最も求められている“管理者としての歯科技工士養成”の 教育システムではないかと私は思っています。

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