流浪の歯科技工士・王譯平・・・老馬之智

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zoom RSS 患者さんの技工物製作にも携わる学徒と実習生(後半)

<<   作成日時 : 2015/12/22 23:47   >>

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「中国でも、最近は審美面だけでなく、機能面についての要求度が高まっています。弊社では咬合に関する知識や技術がほとんどありません。特に、日ごとに多くなっているインプラントを含んだ咬合再構成など、大きな症例の咬合に関して問題をかかえています。解決のための指導をお願いしたい。すぐに結果は出ないだろうが、2年後に何らかの変化が生じればよいので・・・」との王社長の熱い思いに魅かれて、北京のLラボでの技術指導を始めました。
それから、すでに1年と9ヵ月が過ぎようとしています。

ラボの技術レベルを知るためには、作業模型と使用している咬合器を見ればおおよその見当がつきます。
私がLラボに勤務を始めた頃の作業模型と使用されていた咬合器です。
蝶番式の簡易型咬合器の他には、安価な平均値咬合器も使用されていました。
その平均値咬合器は日本製でしたが、すでに中心位関係でがたつきが生じていました。

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作業模型は症例によって3種類に使い分けられていました。
下図は最も多くの症例に製作されていた作業模型です。
精度が悪く、咬合器を上下に動かすたびに、分割した上顎の歯型はバラバラと落ちてくる始末です。

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白いプラスチック板にピンホールをドリリングする昔からあるZeiserシステムを独自に改変した方法も採用されていました。
インプラントのケースでは、埋入されたアナログのために分厚い模型になりがちですが、必要な部分の分割もされず、咬合器にさえ装着されていませんでした。
学徒から員工になったインプラント部の女性チームリーダーによる考えだとのことですが、恐らく、石膏部でアナログを傷つけられたり、模型を破損されたりするのを恐れてのことだったのでしょう。

どの模型製作方法をみても、早く完成出来て、安価にということが最優先されていますが、その後の作業のことは全く考慮されていません。
このような作業模型や咬合器を使用していれば、咬合に関する問題が生じるのは当然のことだと思いました。

石膏部のチームリーダーであるアラサー世代の吴晶晶(Wu Jingjing)もまた、Lラボで学徒から員工になった一人です。
勤務をはじめてすでに約12年が過ぎ、一途に模型製作と咬合器装着に携わってきています。
彼女も当然、他の部署における技術内容は熟知していません。
毎日、大量に送られてくる症例の作業を石膏部の若い員工と一緒に、また、学徒や実習生を指導しながら、いかに効率良く処理するかのみに力を注いできたようです。

咬合の問題を解決するには、作業模型の精度が良いことと中心位にがたつきがない咬合器を使用することが最大の鍵となります。
そのため、製作時や使用時に誤差が生じやすい従来の作業模型はすべて製作を中止することにいたしました。
それまで使用していたプラスチックの模型用材料やダウエルピンおよび平均値咬合器などもすべて廃棄処分し、石膏部から無くしました。

現在は、さや付きで下顎前歯にも使用できる細いダウエルピンを使用し、すべての症例に対処できるようにしています。
大量に、また、高い精度で製作できるように、作業模型の製作ステップを細分化してシステム化をはかるとともに、それぞれの担当者に責任を分担させることにいたしました。
未熟な学徒や実習生も加わって作業を行うため、作業を簡略化する必要性があります。
そのためにも、作業の細分化とシステム化は必須となります。

製作方法をひとつに統一したため、無駄な作業がなくなり、石膏部が残業することもなくなりました。
Lラボでは、その日の作業がすべて終了した場合、午後6時の終業時間前に早退してよい決まりになっていますので、最近は、午後4時前に帰ることもあるようです。
若い人たちにとって自由な時間は、英気を養ううえでも何よりも大切となります。

石膏部のチームリーダーである吴晶晶は非常に指導力があり、また理解力も優れていて、私の方法に対しても細かな点での改良を提案してくれました。
彼女には双子の幼い娘たちがいますが、現在のLラボにおける石膏部作業のシステム化は、彼女の協力がなければ成しえなかっただろうと思っています。

咬合器に関しては、ドイツ製のGirrbach咬合器BNタイプが100台導入されましたので、咬合器が必要な部署の員工や実習生には本人専用として1台ずつ持たせ、各自で管理させるようにしています。
そのため、技工物の咬合に対する意識があきらかに変わってきました。
下図はGirrbach咬合器BNタイプと現在採用している可撤式作業模型です。

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最近は、フェースボーを採得し、偏心位のチェックバイトも採られる先生が増えてきましたので、顆路の調節可能なGirrbach咬合器CTタイプも導入していただきました。
この咬合器の中心位はLラボで使用しているGirrbach咬合器BNタイプと一致するようになっていますので、ポーセレンの最終仕上げの前に、咬合チェックのために使用しています。

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Lラボにおいては、硬質レジンによる作業は、インプラント関係でたまに見かける程度で、クラウン・ブリッジの作業の約90%以上がポーセレン関係で占められています。
しかも、最近はCAD/CAMを使用したジルコニアによるフルセラミックの症例やEOSの3Dプリンターを使用したコバルトクロム合金による金属焼付けポーセレンの症例が多く見られます。
その場合、簡単なクラウンやブリッジの症例であれば、デザインソフトを使用した設計が可能です。
しかし、咬合や審美性に対する要求度が高い複雑な症例については、咬合器を操作しながらワックスアップしたものをスキャニングするいわゆるダブルスキャンという方法を行う必要があります。

例えば、対合歯とクラウンの咬合接触関係において40ミクロンの空隙を生じさせたい場合、40ミクロンのアルミ箔を用いて引き抜きテストを行い、その接触具合を指に感じさせながら調整させています。
そのような作業はパソコンの画面上ではできず、やはり歯科技工士の手作業によるアナログ方式を併用したほうがはるかに精度を高めることができます。

下図のドイツ・カボ社の咬合器プロターevo7を用いたケースは弊社社長の歯科医院における症例です。
ちなみに、社長は北京医科大学出身の歯科医師で、北京の4ヵ所に自分の歯科医院も経営しています。
口腔内で試適するためのワックスアップが完成したところです。
株式会社松風のモデルシート0.2mmを用いてビニールコーピングを製作し、ワックス・クラウンを補強しています。
インプラントのアバットメントはPMMA樹脂を用いて製作した試作品です。
口腔内試適で審美性や咬合関係に問題がなければ、ジルコニアを用いてアバットメントを製作したうえで、ジルコニアベースによるセラミック・クラウンが製作されます。
臼歯部では、咬合面と舌側面に関してはフルジルコニアとなります。
このようなケースでは、デジタル画面での設計は煩雑で正確な咬合関係も築けません。
ダブルスキャンという方法を用いた方が審美面でも機能面でもはるかに優れたものになります。

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ダブルスキャンを行うためにはスプリットキャストによる模型を製作し、咬合器に装着する必要があります。
但し、インプラントが含まれたケースの場合、往々にして、スプリットキャストのためのマグネットが組み込めないこともあります。
上記のケースでもマグネットは組み込むことができず、上顎のスプリットキャストを即時重合レジンで仮着して対処しています。

また、スキャニングの精度を高めるためには、模型の高さを60mm以下とし、しかも、できるだけ低くする必要があります。
もし、スプリットキャストにしていない場合は、模型の高さの影響によってスキャン時に問題が生じる可能性があります。

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そこで、従来法によるマグネットを用いた石膏によるスプリットキャストを製作して対処していたのですが、製作に時間がかかり、また、分離材の塗布が不十分で模型の一部を破損させたり、あるいは、中国製マグネットに錆が生じて不適合が生じたりと満足な結果が得られませんでした。

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スプリットキャストについては、上記のような問題がありましたが、最近、中国製のスプリットキャスト用マグネットプレートを導入したことによってすべての問題点を解決することができました。
天津市のメーカーで製造されていますが、まだ、正式な名前は付けられていないようです。
プレートのマグネット面(左)とその裏面(右)です。

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台座製作用のフレームにマグネットプレートを挿入した状態で使用します。
台座製作用のフレームには2種類の大きさがあります。

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模型に組み込まれた薄い鉄板だけが消耗品となります。
上下顎の模型をスプリットキャストにしても、咬合器への装着には何ら支障をきたしません。

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ダウエルピンを用いた可撤式模型の場合でも、高さを40mm以下に製作することができますので、スキャニング時の問題も生じません。

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新たな作業模型の製作法とGirrbach咬合器を導入してシステム化したことによって、技工作業上で生じる咬合に関する基本的な問題点をほぼ取り除くことができたと思っています。

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私の助手をしている医療専門大学の実習生たちです。
写真の手前が蒋海丽(Jiang Haili),後方は郭晓琴(Guo Xiaoqin)といいます。
彼女たちに限っては、模型製作や咬合器装着はもとより、すべての部署における製作技術をマスターできるように指導を行っています。
将来、彼女たちが若い中国の人たちに対して、歯科技工の全ての分野において専門的な技術指導ができるようになってくれることを願っているからです。

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助手の郭晓琴がスキャン用ワックスを用いてワックスアップしたものです。
ダブルスキャン方式によって、咬合面と舌側面はオールジルコニアで作られます。
このケースについては、ジルコニアクラウンの内面調整や隣接接触面の調整および咬合調整なども郭晓琴が担当しました。

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完成したジルコニアベースのクラウンです。
頬側はポーセレン築盛法で色調が改善されています。
このクラウンは、石膏部の担当者以外に、私の助手の郭晓琴、CAD/CAM部、ポーセレン築盛部、形態修正部、着色艶出し部の合計5人の担当者による分業で製作され、完成されたものです。
日本のレベルが高い技工所の技術には到底及びませんが、分業によってどこまでそのレベルに近づけることができるか日々挑戦しているところです。
中国での流浪の旅もまだ道半ばです。

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長い文章になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
今年は、これが中国からの最後のご報告となります。
みなさまもどうか良い年をお迎えになりますよう、北京の地からお祈りいたしております。


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