アナログ技工とCAD/CAMのコラボレーション/PMMA樹脂による咬合再構築のためのテンポラリー・クラウン

日本では、このような症例に出会ったことは一度もありませんでした。
図1に見られるような咬耗がひどく、咬合高径が著しく低くなっている症例です。
歯牙欠損部には義歯さえも装着されていません。
顎関節にも問題が生じているに違いありません。
患者さんは60歳代の男性だとのことですが、このような状態になるまで放置せざるを得なかった何らかの理由があったのでしょう。
最近、このような症例が弊社Ⅼラボの川崎工作室へかなり頻繁に送られてくるようになりました。

図1
咬合再構築を必要とする症例です。

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図2、図3
図1とは異なる症例ですが、最近、8月末に川崎工作室で手掛けた症例です。
図1の症例と同じく、咬耗がひどく、咬合高径も著しく低くなっています。
この症例を用いながら、PMMA樹脂による咬合再構築のためのテンポラリー・クラウン製作についてご報告したいと思います。

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このような症例に対しては、最終補綴物の完成に至るまで、顎関節治療用のスプリントや全顎にわたるテンポラリー技工物を少なくとも2回製作する必要があるため、多くの日数がかかります。

最初に、診断用ワックス・アップが依頼されますので、フェイスボウ記録に基づいて上顎模型を咬合器に装着し、下顎模型はその時点における中心咬合位記録をもとに装着しています。

その後、審美性や前歯誘導路などを考慮しながら、上下顎の前歯部をワックス・アップしますが、その際に、咬合器上で咬合を挙上させ、仮の咬合高径を設定しています。

図4、図5
完成した診断用ワックス・アップです。
これをもとに歯科医師と患者さんとの話し合いが持たれ、処置方法が決定されます。

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本症例に対しては、その後、患者さんの同意が得られて、歯科医師による診療方針が決まりました。

すでに、口腔内ではモック・アップ(mock・up)法による作業が行われ、モック・アップ用材料によってワックス・アップの形態が第一次のテンポラリー・クラウンとして口腔内で再現されていることと思われます。
但し、全顎にわたるテンポラリー・クラウンを口腔内で理想的につくることは容易ではありません。

その為、支台歯形成された後、テンポラリー・クラウンを製作するための印象が川崎工作室へ届きました。
もちろん、フェイスボウ記録やチェックバイトも同封されていました。
本症例では、CAD/CAMを応用しながら、PMMA樹脂によるテンポラリー・クラウンを製作することになりました。

図6
弊社Lラボで使用している技工指示書です。

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川崎工作室で製作する場合は、必ず右図の印鑑を押して、責任の所在を明確にしています(指示書上の矢印を参照)。

技工指示書によりますと、印象が到着した日は8月26日午後、セット日は8月30日と指定されていました。
3日後の29日には出荷しなければなりませんので、技工作業の時間が短く、非常に厳しい日程となっていました。

テンポラリー技工物は審美性を改善させるとともに、患者さんの顎位を安定させるために必要な処置ですので、歯科医師が急がれるのも無理はないと思い、製作を引き受けることにしました。

図7
ワックス・アップなど歯科技工士が従来の手技を用いて製作する、いわゆるアナログ技工の部分は、この症例では写真の王鑫麗(23歳)が担当しました。

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作業模型は本社ラボの模型製作部で製作されますが、その後の咬合器装着から完成までのアナログ技工の作業はすべて彼女が行いました。

王鑫麗は医療専門大学を卒業後、2年が過ぎて3年目に入ったところです。
実習生のときから川崎研修センターで学び、医療専門大学卒業後、そのまま川崎工作室で勤務しています。
ポーセレン築盛作業はもちろん、ドイツKavo社の全調節性咬合器Proter evo7の調節法もマスターしています。

川崎工作室には医療専門大学や職業学校の口腔修復工芸科(日本でいう歯科技工士科)を卒業した19人の歯科技工士が臨床ケースの製作に携わっていますが、王鑫麗は、今年から私の助手のひとりとして臨床部門の品質管理も担当しています。

図8
本症例の作業模型は、ドイツGirrbach社製の半調節咬合器Artex CPに装着されています。

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図9
咬合高径や水平的な顎位はモック・アップ法によって作られたテンポラリー・クラウンをもとに口腔内で決められ,咬合採得されています。
そのバイトをもとに下顎模型が装着されています。

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図10
正中線や咬合平面の位置を確認しながら、ワックス・アップのバックアップ法によって図4、図5のワックス・アップ形態を作業模型上に復元させたところです。

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審美的な形態や排列はもちろん、中心咬合位における咬合接触点や偏心運動時の前歯誘導路などを再調整し、不要な咬合接触を除去します。
このような作業は、パソコン画面上で行うCAD設計よりも、従来のアナログ技工で行ったほうが早くて正確にできます。

但し、クラウンのマージン・ラインについてはCAD作業時に行ったほうが精密に設定されます。
従って、ワックス・アップ作業の際はマージン・ラインを精密に適合させる必要はありません。

図11、図12
ワックス・アップによって、咬合器上における咬合再構築の作業が完成しましたら、その後の作業はCAD/CAMによるダブルスキャン法で技工物が製作されることになります。

川崎工作室にはCAD設計ができる4人の女性歯科技工士がいます。
本症例のCAD操作も彼女たちが行いました。

まず、咬合器に装着された状態で上下顎の作業模型の位置関係がスキャンされ、さらに、作業模型の全歯列がスキャンされます。
その後、支台歯ごとにスキャンされて、正確にマージン・ラインが設定されることになります。

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図13、図14
その後、ワックス・アップされた歯列や、ワックス・クラウンの外形がスキャンされ、ワックス・クラウンはパソコン画面上で、それぞれの支台歯に位置付けされます。
歯頚部マージン部分は切削加工時に耐えられる厚さや角度に調整されます。

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CADによる設計が終わりますと、そのデータ資料はメールによって本社ラボのCAD/CAM部へ送信され、本社ラボのCAM設備によって切削加工が行われることになります。

図15
切削加工されたPMMA樹脂によるクラウンです。
夕方6時までにデータ資料を送信しますと、本社ラボでは夜間に研削加工が行われ、明朝には川崎工作室に研削された技工物が届くようになっています。
研削されたクラウンは、ワックス・クラウンと同じ外形に復元され、外形の修正は必要ありません。
但し、CAD/CAM操作時にも僅かな誤差は生じますので、従来の手作業で行うアナログ技工による処理や調整は必須となります。
例えば、クラウンの適合調整、厚みをもって設計されたマージン部の修正、咬合面における溝の修正、隣接面における接触状態の調整、咬合器上における咬合の再調整などです。

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図16
ワックス・クラウンとPMMA樹脂によるクラウンを対比させています。
ほとんど同じように製作されていることがお分かりいただけると思います。

本ブログの全ての図はクリックしていただくと拡大できますので、お試しください。

右側方観です。

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図17
左側方観です。

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図18
前方観です。

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中国では私が知る限り、硬質レジンで前装したクラウン・ブリッジは使用されていません。
耐火模型材を使用したラミネートの製作法などすでに過去のものとなっています。
金属焼付ポーセレンでさえ、日本における保険用クラウンと同じような扱いをうけ、低価格の補綴物として使用されている状態です。

川崎工作室では、中国における高級補綴物であるオールセラミックスによるクラウン・ブリッジの製作のみを行うことにしています。
実習生7人を除いた19人の歯科技工士によって、月間700~800歯を製作しています。
その約80%はCAD/CAMを利用し、ジルコニアやガラス・セラミックスをベースにしたクラウン・ブリッジで、それらはワックス・アップをダブルスキャンするテクニックによって製作しています。
残りの約20%はイボクラー社のe-maxによるプレステクニックで製作しています。

弊社Lラボ本社は昼夜2交代制になっていますが、川崎工作室は午前8時半から午後6時まで(但し昼休みが1時間半あります)とし、2交代制とはしていません。
また、基本的に残業はさせないようにしています。
私自身、自分で技工作業をすることは100%ありませんので、毎日、午後6時にはきっかり退社することにしています。

但し、本症例では、厳しい時間設定が組まれたために、アナログ技工を担当した王鑫麗は、1日だけ午後10時頃まで残業したようですが、後日、担当医の先生から、咬合関係も全く問題なくセットできたとお礼の報告を受けたそうです。





















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