流浪の歯科技工士・王譯平・・・老馬之智

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zoom RSS 海外委託技工を再考する

<<   作成日時 : 2015/08/01 18:41   >>

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中国にいますと日本の歯科技工界の状況がとても気になります。
日本人男性の平均寿命まで歯科技工士をやり遂げることができたとしても、私にはあと6年程度しか残っていませんので、私が今、何を考えても仕方がないのですが、それでもやはり気になるものです。
これまでも、日本の歯科技工士の方々が書かれたブログの中から多くのことを教えていただいてきましたが、最近気に掛かる言葉を多く見かけるようになった気がしています。
「疲れた」、「心が折れた」、「CAD/CAM導入も考えたが・・・」、「同業で同年代の方の悲しい情報が入り、それも二人・・・」、「廃業へのカウントダウンか」などです。
おそらく、50歳代のひとりラボの方や小人数のラボを経営されている方々のブログなのでしょう。

また、あるブログには
「感謝もなく、労をねぎらわれることもなく、長時間労働の、低単価の不遇の日本の歯科技工士に、どうすれば良い未来が描けるのだろうか」
という心の叫びも綴られています。

私自身も過去に、福岡で約13年間、東京で約10年間、自分のラボを持った経験があります。
ひとりラボのときもあれば、多くても私を含めた歯科技工士3名という小さなラボです。
ですから、私なりにひとりラボや小規模ラボ経営の苦しさは身に染みてわかっているつもりでいます。

去る6月27日に日本歯科技工所協会主催による、第1回目の「2015 ラボオーナーズサミットin東京」が開催されたということをブログで知りました。
また、私の親しい友人のひとりが編集、発行人となっている障がい社員新聞“絆”におけるリポートでも詳しく知ることができました。
このサミットは、歯科技工業界をより良い方向に成熟させるための最後のチャンスだと主催者の方々は意気込んでおられるとのことです。
その開会の辞で、日本歯科技工所協会理事長の方は次のような内容の言葉を述べられたそうです。
「歯科技工士、歯科技工所という患者は今や集中治療室(ICU)に入れられた状態にある。出血がとまらない!輸血の血液が足らない。病気の原因は何か?診断し、早く治療をしなければならない」

本当にそうだと思います。
将来が見えずに下流でもがいている歯科技工士の今の姿を表している言葉のように思われます。
では、どうすればいいのかという具体的な解決策や提案は、残念ながら友人のリポートからは読み取れませんでした。

ただ、パネリストのおひとりである参議院議員の方の発言にはヒントが多く隠されているように感じました。

その発言された内容は、
1)補助金を活用しなさい。
2)デンタルサポートの実例として海外技工士学校に2千万円の支援
3)技工士は共同で設備投資をし、お互いライバルと考えず協同・協調の精神を持ちなさい。
4)TPP交渉で歯科医療、医療保険は、参加国の全一致が条件であってカナダが大反対だから心配ない、しかしTPPでは無く日米二国間協定ということも考えられる。
だそうです。
もし、私がその会場にいたら、質問をしてもっと具体的な内容を詳しく知りたかったと、友人のレポートを読みながら残念に思ったものです。

インターネット上では、TPPによって混合診療が解禁になるのではないかと噂されています。
もし解禁になれば、保険に適用されなかったメタルボンドクラウンやジルコニアクラウンなどの需要が多くなるでしょう。
補綴物はすべて自費となっている現在の中国のような状態になるのではないかと思われます。
私が勤務している北京のLラボには、クラウン・ブリッジ関係だけでも毎日200〜300症例が送られてきていますが、その約80%はポーセレンによる修復物です。
但し、低料金に抑えられる必要性から、メタルボンドは非貴金属が多く用いられています。
日本もやがては,高額な貴金属や金含有のパラジュウム合金ではなく、中国やドイツにおけるように、金属は安くて為害作用が少ないコバルトクロム合金やチタン合金が主流になるのかもしれません。

そうなると、ラボはCAD/CAMを使用した製作法がますます重要度を増し、コバルトクロム合金やチタン合金を切削するCAM(大型切削機)の導入が必要で、また、チタン専用の鋳造機やレーザー溶接機などの機器を新たに備えることも必要になるでしょう。
そうなった場合、日本のひとりラボや小規模ラボにとっては経済的な負担が大きく、そのような設備投資を行うことはまず不可能なことと言えるでしょう。

そこで、参議院議員の方が言われているように共同で設備投資を行うか、あるいは、すでに設備があるラボを共同で使用させてもらうことなどを考えたほうがよいと思います。
つまり将来は、設備のあるラボが核となって、小さなラボ集団の輪や集合体をつくることができれば、日本のひとりラボや小規模ラボの自然消滅を防ぐことができるかもしれないと考えています。

また、大型の高額な設備で、その設備が日本で使用できない場合は、外国のラボの設備を利用することを考えてもよいのではないかと私は考えています。
例えば、ドイツのEOS社製のレーザーシンタリングシステムによる3Dプリンターなどです。
この設備はコバルトクロム合金によるクラウンコーピングやブリッジのフレームを製作する機械で、約1億円もするそうです。
日本では最大手ラボのW社に1台導入されているだけだと聞いています。
また、W社では日本の他のラボからの製作委託は受け付けられていないとも聞いています。

中国では弊社Lラボの他、北京のラボ2ヶ所に、その他、上海や広州のラボなどにも導入されています。
それぞれのラボは海外のラボからの製作委託も受け付けているそうです。

私が勤務しているLラボも海外からの製作委託を受けています。
どのような方法で委託を受けているかご説明します。
但し、ここでは分かりやすいように、アメリカやヨーロッパのラボからの委託ではなく、日本の東京にあるAラボから委託をうけていると仮定して話を進めさせていただきます。

ステップ1:東京のAラボでは、取引がある歯科医院や製作の委託をうけた地方のBラボから送られた印象や模型をもとに可撤式作業模型が製作され、咬合器に装着されます。
この場合、製作を委託した地方のBラボで、すでに可撤式作業模型が製作されている場合もあります。

ステップ2:東京のAラボではその模型をスキャンしてパソコンに取り込み、CADソフトによって補綴物の設計を行います。
この場合、複雑な補綴物の場合は、東京のAラボあるいは地方のBラボで前もってワックスアップされたフレーム形態をダブルスキャンという方法でパソコンへ取り込みます。

ステップ3:その後、東京のAラボはデザインしたデータ資料をメールで中国の弊社Lラボへ送信しますと、瞬時に弊社Lラボの担当部門へデータ資料が届きます。

ステップ4:弊社Lラボではそのデータ資料を見ながら、EOS社の3Dプリンターで製作するうえでの問題点がないかをチェックします。

ステップ5:問題があれば、問題点の画像を添付して東京のAラボへメールで知らせ、修正をお願いします。

ステップ6:東京のAラボで設計されたデータ資料は弊社Lラボの担当者によってEOS社の3DプリンターのCAMソフトに転送され、製作するための排列板に位置決めをします。

ステップ7:その後、EOS社の3Dプリンターによって自動的に製作が行われます。

ステップ8:EOS社の3Dプリンターでの製作が終了した後、約8時間の熱処理を行い、製作時に生じた応力を緩和します。

ステップ9:その後、サンドブラスターで酸化膜を除去した後、専用の電動鋸でサポートピンの部分をカットします。

ステップ10:サポートピンが取り除かれたメタルコーピングやブリッジフレームは航空便で弊社Lラボより東京のAラボへ宅配されます。

ステップ11:東京のAラボではメタルの適合調整や形態修正を行い、ポーセレンや硬質レジンを築盛して修復物が完成されます。
あるいは、委託を受けた地方のBラボへメタルコーピングやブリッジフレームを宅配便で送り、その後、地方のBラボでポーセレンや硬質レジンを築盛して修復物が完成されます。

赤文字で示したステップ4〜10の箇所が中国の弊社Lラボで行われる作業です。
誰もができる単純な作業です。
歯科技工に関する知識を全く必要としない作業ステップです。
メタルコーピングやブリッジフレームは、中国人技工士の手によって作られるのではなく、ドイツのEOS社の3Dプリンターによって製造されます。
中国のラボに委託という形はとっていますが、歯科技工に関する専門知識が必要な作業はすべて日本のラボで日本人の歯科技工士によって行われます。
日本では、このような方法でも中国への海外委託技工と色眼鏡で見られるのでしょうか?



EOS社の3Dプリンターでメタルコーピングやブリッジフレームを製作する場合、備えておかなければならない必要な条件があります。
ご参考までに、弊社Lラボに海外からメールで送られてきたデータ資料の内、問題点(赤い矢印部分)があるデータ資料を添付します。

マージン部の厚さが確保されていない例です。
マージン部は最少0.4mmの厚さが必要ですが、0.14mmの厚さしかありません。
薄いマージン部はCAMソフトが読み込むことができず、結果的に短いマージンになってしまいます。

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クラウンのコーピングの厚さは最少0.5mmが必要ですが0.38mmとなっています。

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石膏歯型の隅角部に鋭利な部分や側壁にアンダーカット部分などがあると、CAMソフトによって自動的に修正されますが、その際、過剰に修正された場合、適合状態に問題を生じます。
そのため、スキャンする前の石膏歯型の前処理が非常に大切になります。

切端部の内面に窪みがみられます。

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歯型の切端部が鋭利で尖った形態になっています。

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歯型の側壁のアンダーカットが封鎖されていませんので、クラウンの内面に突起物ができています。

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製作を委託する場合、国内のラボで製作できることは国内のラボに製作を委託するに越したことはありません。
同じ日本の教育を受けた歯科技工士同士が日本語で話し合うことができますし、税関を通す必要もなく、短い日数で依頼した技工物を受け取ることができるでしょう。
但し、日本では製作できないものもありますので、ご参考までに、もし、北京の弊社Lラボに東京のAラボから製作委託を受けた場合、どの程度の日数が必要になるか調べて表にしてみました。

この表は、EOS社の3Dプリンターを用いて製作するメタルコーピングやブリッジフレームを、仮に、東京のAラボが北京の弊社Lラボへ製作委託する場合です。
東京のAラボからは日本時間の午後7時までにデータ資料をメールで送っていただいた場合を想定しています。

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今後、CAD/CAMを使用した技術はますます多様化し、ハード面もソフト面もさらに進化、発達していくでしょう。
日本でもCAD/CAMが歯科技工の分野に普及しはじめたことによって、専門技術化したひとりラボや小規模ラボにとっては、むしろ大きなチャンスとさまざまな可能性が期待できる時代になったのではないかとむしろプラスに考えています。
下図のケースのようなインプラントの上部構造の場合、CAD/CAMを個人で持っていないラボであっても、スキャナーなどCADの設備を利用できるところと協同・協調して作業できれば、国内はもとより海外のどこにでも製作を委託できる時代になっています。
今はすでにそのような時代に入ったようです。

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