大連市の「百年職校」における歯科技工士科

中国に「百年職校」という職業学校があります。
企業や個人の有識者からの寄付、および、ボランティア精神を備えた人たちによって運営され、中国初の無料慈善学校として2005年に設立されました。
現代の中国は、経済の急速な発展で成果をあげ、世界中から注目されていますが、都市化の波の中で、都市と農村の収入の格差、教育資源の配分のバランスが崩れているともいわれます。
中国の農村における貧困若者に、質の良い職業教育と就業機会を提供することを目的に「百年職校」は設立されています。

この学校で学ぶ学生は、在学期間中に必要な一切の費用が免除されています。
宿泊施設を無料で提供され、一日三食、四季の制服、学習用具など、学習に必要な生活条件がすべて無料で提供されています。

「百年職校」に入学するためには次の条件が必要だそうです。

1. 農村における貧困世帯カードを所有していること。
2. あるいは、月収が居住地域住民の最低生活保障金額または最低賃金水準を下回る家庭であること。
3. 年齢が16歳から22歳であること。
4. 中学校以上の学歴があり、健康であること。

ここで学ぶ学生たちは、家庭が貧困というだけでなく、その原因ともなった色々な家庭環境が背景にあります。
それぞれの学生が背負っている過去や悩みは異なりますが、例えば、両親の離婚や父親との死別、祖父母だけのわずかな収入による生活、その生活を支えるために小学生時代から農作業の手伝いなどです。
中学生までは国家によって教育の機会が保証されていますが、その後は貧困のために教育の場を失っている若者たちです。

今回訪問した大連市の「百年職校」には、口腔義歯製造(日本で言う歯科技工士科)と養老介護の二つの職業技能専攻課程が開設されています。
本稿では、口腔義歯製造課程(以下、歯科技工士科)の概要についてご報告いたします。


図1
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「百年職校」は2005年に北京にて初めて設立され、今年は設立15周年になります。
大連市の「百年職校」における記念式典に招待されましたので、弊社Lラボの王社長と一緒に参加しました。
受付の壁面には幕が張られており、招待客はその幕にサインするようになっていました。
サインを終えた弊社Lラボの王社長(左)と私です。

図2
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「百年職校」は中国国内の市や省に10カ所、更に、アフリカのアンゴラにも1校設立されています。

図3
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左上写真の女性は、式典中における「百年職校」創立者の姚莉理事長です。
これまで3度お会いしたことがあります。
初回にお会いした時は、「コンニチハ、ハジメマシテ、ヨロシクオネガイシマス」と日本語で言われたあと、「私は、日本語はこれだけしか話せないのです」と気さくに話し掛けられたことを覚えています。
学生たちは彼女のことを「ママ」と呼んでいるようです。
聞くところによりますと、現在の中国国家副主席夫人の妹にあたる方だそうです。

右下の祝辞を述べられている女性は、大連市の副市長だそうです。
中国では、女性が結婚しても働くことは当たり前のようになっています。
また、その機会が男女均等に与えられるような社会の仕組みにもなっているようです。
この方たちのように能力があり、優秀な女性が指導者の立場で活躍されているのも納得がいく気がします。

図4
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寄付やボランティアによって学校へ貢献された人たちの代表(花束を持っている人たち)から、今年卒業する学生の代表たちへ、卒業証書が送られました。
花束を持っている右端の男性は弊社Lラボの王社長です。

図5
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今年入学した約70名の新入生たちです。
卒業する学生から紺色の校旗を受け継ぎました。
この新入生たちのほとんどが歯科技工士科で学ぶことを希望しているそうです。

図6
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式典が終った翌日に、「百年職校」の歯科技工士科を見学させていただくことにしました。
玄関の壁面には「教育は人生を明るく照らし、技能は社会における立場を定める」と書かれています。
飛行場への送迎や学内を案内いただくなど、今回お世話になった先生方です。

図7
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「百年職校」の応接室兼会議室で、李校長(右)と話している弊社Lラボの王社長です。
室内の壁には、歴代の中国国家主席の写真や中国共産党の方針、および、中国共産党員としての心構えなどが書かれています。
「百年職校」へは国からの資金援助はなく、あくまでも企業や個人からの献金で運営されていると聞いていますが、資金面以外の面で、中国共産党や国からの支援があるのだろうと想像されます。

図8、図9
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「百年職校」の歯科技工士科には、このように設備が整った実習室が3部屋あります。
習得技術のレベルや内容によって実習室を使い分けているとのことです。


図10
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石膏による歯形彫刻の実習が行われていました。
天然歯の形態よりも3倍から5倍の大きさに彫刻して歯の形を作る練習をしています。
日本の歯科技工専門学校との交流もあるとのことですので、石膏棒を用いた訓練法は日本からの影響なのかもしれません。
「百年職校」は他の職業学校と同じく三年制で、学生は二年間学校で勉強し、残りの一年間はラボで実習生として技術を学びます。

図11、図12
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「百年職校」における実習は、一年生の間は、一週間で約4時間の石膏棒を用いた歯形彫刻のみだそうです。
二年生になるとワックスを用いたクラウンや金属床義歯の実習、および、蝶番式咬合器に石膏模型を装着して総義歯の人工歯排列の実習なども行われるそうです。

図13
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今年から新たに、半調節性咬合器に石膏模型を装着し、全ての歯をワックス・アップする実習も取り入れられています。
この実習が導入される際には、私の助手の蒋海麗が出張して指導しています。
図右のワックス・アップは、実習のためのサンプル模型です。
医療専門大学を卒業後10年という技術指導教員の方(図6の右から二人目の女性)の作品です。


川崎研修センターでは、8月から、7名の実習生が技術指導を受けています。
その中の4名は医療専門大学の学生ですが、他の3名は「百年職校」の学生です。
医療専門大学の学生たちは、2年の教育期間中、技術実習は全く受けていません。
石膏棒による歯形彫刻もワックス・アップの経験も全くありません。

中国における医療専門大学や職業学校における歯科技工の教育では、多くの学校で技術実習は取り入れられていません。
歯の形を作ることも知らないまま、学生たちは実習生としてラボに送られ、技術指導をラボにゆだねられる状態となっています。
彼ら学生たちの歯科技工士としての人生は、どのようなラボで、また、どのような部門で学んだかによって、将来、大きな差がつくことになります。

「百年職校」における技術実習は、日本の歯科技工専門学校の技術実習と比べると非常に物足りない感じを受けますが、中国の中では積極的に技術実習をとりいれている学校のひとつといえます。

ちなみに、川崎研修センターでは、石膏棒を用いた歯形彫刻の技術訓練は一切行いません。
ワックス・アップによる技術指導を徹底して行っています。
ワックス・アップは、CAD/CAMを使用する時代には有効的な方法だと思っているからです。
ワックスで製作したものであれば、それをダブル・スキャンすることによって、全く同じ形態の物に再現できます。

川崎研修センターのワックス・アップによる基礎訓練では、下記の目的で行っています。
1. ドロップ・オン・テクニックによる機能的ワックス・アップ法の手順を忠実にマスターすること
2. 天然歯の見本形態を正確、緻密に再現する観察力と技術を養うこと
3. 対合歯と咬合する接触点の位置を知ること
などです。

図14
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現在、川崎研修センターで学んでいる「百年職校」の実習生、王雨晴(19歳、女性)によるワックス・アップです。
基礎訓練開始1ヵ月半のワックス・アップです。

図15
下颌联冠.jpg

同じく「百年職校」の実習生、王雨晴(19歳、女性)によるワックス・アップです。
基礎訓練開始2ヵ月後のワックス・アップです。
川崎研修センターにおける「百年職校」の実習生3名は、いずれも真面目で、努力している様子がうかがえます。

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医療専門大学の実習生、武澤宇(21歳、女性)によるワックス・アップです。
専門大学における2年の教育期間中、技術実習は全く受けていません。
石膏棒による歯形彫刻もワックス・アップの経験も全くありませんでした。
川崎研修センターにおける基礎訓練開始2か月後のワックス・アップです。


基礎訓練では前歯、臼歯を合わせて6種類の練習用模型を使用します。
この基礎訓練が終了した後、ドイツGirrbach製平均値咬合器に装着した模型でワックス・アップを用いた咬合の作り方を学びます。


図16
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「百年職校」の設備室です。
実習で実際に使用されることはないようですが、どのような作業時に、どのように使用するかを教えるための機器だそうです。

図17
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スキャナー、3Dプリンター、焼結機、大型研削機など、CAD/CAM関係の設備もありました。
ラボの外来講師によって、その使用法やデモが行われるそうです。

図18
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小ぢんまりとした一室には治療用の椅子が設置されていました。
外来講師の歯科医師が患者を連れて来て、臨床における医療現場の状況を教えるための部屋だそうです。

図19
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また別室に、口腔内印象の方法を練習する実習室も設けられているのには驚きました。
日本では、歯科技工士が口腔内における作業をすることは一切禁止され、口腔内印象をすることさえもできません。
中国では、歯科衛生士の制度が確立されていないそうですので、口腔内印象については、ある程度、黙認されているのかもしれません。

図20
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一通り学校内の見学を済ませた後、講義室で弊社Lラボの王社長の講義が行われました。
内容は、弊社Lラボ内の様子や歯科技工士が行う作業内容、あるいは、歯科技工業の将来についての説明などです。

図21
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講義室には、「百年職校」で歯科技工を学んでいる学生たち全てが出席しました。
新入生を含めて約百名の学生たちです。

中国では歯科技工士になることを希望する若い人たちが多いそうです。
「百年職校」創立者の姚莉理事長から、「北京校でも、新たに歯科技工士の技能専攻課程をつくることを検討している」との話を聞いたことがあります。
中国ではまだまだ歯科技工士の人材が不足しているようです。












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