北京口腔医学会の口腔修復工芸学における講演


北京口腔医学会論壇(フォーラム)における口腔修復工芸学の演者として招待され、講演をいたしました。
招待演者は4名で、それぞれ午前中に講演を終え、午後は、北京大学口腔医院などの著名な歯科医院や歯科技工所の高級牙科技師(歯科技工士)6名による症例報告が行われました。

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講演日の3日前にプログラムが送られてきて知り、大変驚きました。
元国際デンタルアカデミー副所長の田村勝美先生も日本人演者として招待されていたからです。
講演当日の田村先生によりますと、私が招待演者として講演することは前日に知ったとのことで、やはり、驚かれた様子でした。
私と田村先生は、卒業した学校が同じ九州歯科技工専門学校です。
また、私が卒業するときの担任でもあった先生です。
異国の地の学会で十数年ぶりにお会いできるとは考えてもいませんでした。

図2
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講演会場は100人程度が受講できる広さでした。
満席のため、座れずに立って聞かれている方もいました。

図3
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講演時における田村勝美先生です。

図4
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田村勝美先生の講演は、咬合再構成に関する内容でした。
咬合を語るには、通訳を含めた1時間の講演時間では十分ではなかったようです。
ご自身の講演終了後、すぐに退場され、帰国の途につかれたようです。

私は田村先生の後を引き継ぎ、PowerPoint の74画面を使用しながら中国語にて講演を行いました。
学会から依頼された講演内容は、『日本人歯科技工士の目から見た中国歯科技工士の教育状況』です。
その主な講演内容をピック・アップして、下記、図5~図30にてご紹介したいと思います。

図5
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私は日本の歯科技工士です。
川崎従道といいます。
現在、北京Leiejia医学技術有限公司の川崎研修センターで、技術顧問として技術指導を行っています。
私は28歳のときに日本の歯科技工専門学校を卒業しました。
現在78歳です。
50年間、歯科技工士の道一筋で働いてきました。

図6
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50年の間、歯科技工の技術も、使用する材料や機械も非常に進歩してきました。
1970年代や80年代頃は、スイスやドイツの技工技術は世界最高だと言われていました。
当時は、ミリング・テクニックやアタッチメントを使用した精密技工が高く評価されていました。
これらの技術は、非常に難しい技術で、習得するまで長い年月を必要としました。

図7
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この歯科技工物は、IRVというミリング・テクニックを応用し、私自身が製作した作品です。
43年前の1976年、第一回国際歯科技工学術大会のコンテストで金賞と厚生大臣賞を得た作品です。
現在では、このような精密技工技術を学ぶ必要はなくなりました。
臨床に応用されることもなくなりました。
というのも、インプラントが普及し、CAD/CAMによって精密な歯科技工物を誰もが簡単に製作できるようになったからです。

図8
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IRVというミリング・テクニックが開発されたスイスのベルン大学に、聴講生として1983年から2年間、在籍させていただいたこともあります。
その後、ドイツの歯科技工所2ヵ所で合計4年間働いたこともあります。
中国では約8年間、4ヵ所の歯科技工所で技術指導者として働いてきました。

図9
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では、まず日本と中国における歯科技工士の教育制度の違いについてご紹介したいと思います。

現在は、CAD/CAMを使用できる時代になっていますので、日本の歯科技工士の教育方法も徐々に変わってきています。
今は、多くの専門学校でCAD/CAM技術の指導や訓練が重要な教育内容となっています。

中国の多くの学校では、講義が主で、実技実習がほとんど行われていませんが、日本では、学校で学ぶ時間の約3分の1は技術実習の時間です。
歯の形を学ぶ歯形彫刻の練習はもちろん、日本の健康保険制度に採用されているような基礎的な歯科技工物を製作する実習が行われています。

図10
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中国には歯科技工を学ぶための学校が約400校あるといわれていますが、日本には現在48校のみです。

歯科技工の専門学校へ入学するためには、日本では必ず高校卒業の学歴が必要です。
中国では、高校卒業後に入学できる医療専門大学(大専)と中学を卒業後に入学できる中等職業専門学校(中専)があります。
歯科技工士になるためには、それらの学校の口腔修復工芸科(日本でいう歯科技工士科)で学びます。

中国の専門学校では3年間の学費は約1万5千元(約225,000円)と聞いています。
それに比べ、日本の学費は非常に高額です。
私立の歯科技工専門学校で2年間学ぶ場合の学費は約21万元(約3,150,000円)と言われます。

日本では、歯科技工専門学校を卒業すると同時に、日本の国家試験を受けなければなりません。
日本の国家試験に合格して、日本の専業資格証を取得して歯科技工士になります。
中国では資格がなくても、誰もが歯科技工の作業に従事してもよいことになっていますが、日本では、日本の専業資格証を持たない者は歯科技工をしてはいけないことになっています。
印象に石膏を注入して模型を製作することさえも禁じられています。

中国の学校では、医者の補助業務を学ぶこともあるそうです。
例えば印象採得の方法などです
日本では、歯科技工士が口腔内における作業をすることは、一切禁じられています。

日本の歯科技工専門学校には、中国人留学生もいます。
ほとんどの留学生は日本の国家試験に合格し、日本の専業資格証も取得しています。
しかし、日本の法律によって、日本国籍でない人は歯科技工士として日本で働くことができないようになっています。
卒業後の留学生の多くは、通訳やコンピューター・オペレーターとして歯科技工所などで働いているようですが、日本における身分は不安定です。


図11
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1.  中国では、歯科技工のための基礎実習が行われていない学校があるため、石膏による歯形彫刻やワックス・アップの経験がない学生も沢山います。

2.  中国には高校卒業後に入学できる医療専門大学(大専)と中学を卒業後に入学できる中等職業専門学校(中専)があるので、理論教育のレベルに差が生じています。

3.  歯科技工所内の教育では、技工作業が分業制になっているため、全体的な技工技術の習得ができません。

4.  中国にも歯科技工士のための国家試験がありますが、義務づけられていないため、歯科技工士のレベルに差が生じています。

図12
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中国では図11で述べたような歯科技工士教育に関する問題点があります。
その問題点を見直し、改善された教育方法を行うために、北京Lelejia医学技術有限公司では、歯科技工士および実習生の教育施設として、川崎研修センターが開設されました。

図13
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北京Lelejia医学技術有限公司には、毎年、50人から100人の実習生が来ます。
川崎研修センターで学ぶためには、試験に合格しなければなりません。
試験内容は、石膏彫刻、筆記、弊社王社長の面接です。
試験の成績が優れた7~8名が川崎研修センターで学ぶことができます。

図14
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川崎研修センターにおける指導状況です。
私以外に専任の指導者が一人います。
まず、実習生は PowerPoint の画像を見ながら、講師が説明する機能的ワックス・アップの具体的な方法を知ることになります。
その後、ワンステップごとに、実際の技術を個人指導します。

図15
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川崎研修センターでは8月中旬から、今年の実習生の研修が始まりました。
この作品は研修開始2ヶ月後のワックス・アップです。
咬合面の赤い点は中心咬合位における咬合接触点です。
この学生は、学校では、石膏による歯形彫刻やワックス・アップの経験が全くありませんでした。

ちなみに、川崎研修センターでは石膏による歯形彫刻の訓練は一切いたしません。

この基礎訓練では、前歯、臼歯を合わせて6種類の模型を使用し、機能的ワックス・アップ法の基礎作業ステップを学びます。
天然歯の形態を理解し、再現するための観察方法と技術を教えます。
同時に臼歯咬合面や前歯舌側面における中心咬合接触点の位置を理解させます。

基礎訓練の後、咬合器に装着した模型を使って指導します。
実習生は機能的ワックス・アップ法によってどのように咬合関係を作るかを学びます
ワックス・アップを用いた訓練の最後の教材は、上下顎28歯を同時にワックス・アップしながら、咬合再構築の方法を学びます。


図16
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川崎研修センターの中には、臨床部門の川崎工作室があります。
実習生の時に川崎研修センターで基礎教育を受けた後、専門学校を卒業した20名の歯科技工士が、現在、働いています。

図17
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去年、専門学校を卒業した実習生が製作した症例です。
ワックスをスキャンするダブル・スキャンによる方法で製作したジルコニアによるオール・セラミックスのクラウンです。
ワックスとジルコニア・クラウンの形は、ほとんど変化なく製作されています。

中国の歯科技工所では、咬合に関する知識や咬合を作る技術が日本よりも遥かに遅れていると感じます。
中国ではほとんどの歯科技工所でCAD/CAMを使用した技術が行なわれています。
ラミネートや単冠、あるいは3歯ブリッジなどの小さな症例では、パソコン画面上での設計でそれほど大きな問題は生じませんが、症例が大きくなるほど、咬合や審美の面で大きな問題が生じてくると思われます。
それを防ぐためにも、歯科技工士がワックス・アップしたものをスキャンするダブル・スキャン方式は必須であると考えています。


図18
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歯科技工所内における教育の問題点としては

1. 技工作業が細かく分業制になっているため、全体的な技工技術の習得ができない。

2. 広い範囲の知識や技術を習得できないことから、技術管理ができる人材が育成されない。

3. その為、全体的な技工ステップを把握したうえでの技術指導ができる人材も少ない。

川崎研修センターでは、このような問題点を改善するために、分業制ではなく、作業模型製作から完成まで、ひとりで完成する教育システムとしています。

図19
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医療専門大学(大専)卒業後3年以内に製作した3名による3症例をご紹介します。

作業模型から歯科技工物完成まで、全て一人で製作している症例です。
但し、CAD/CAM技術の部分は、北京Lelejia医学技術有限公司本社のCAD/CAM部門の歯科技工士が担当しています。

これらの症例は、すでに、本ブログにも報告させていただいています。
下記のそれぞれの症例には、URLを併記していますので、クリックして本ブログをご参照いただければ幸いです。

図20
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図20と図21は、医療専門大学(大専)卒業1年後に、私の助手のひとり、蒋海麗が製作した症例です。
https://xiaolong1017.at.webry.info/201711/article_1.html

作業模型の製作や半調節性咬合器の調節もすべて彼女自身が行っています。
診断用ワックス・クラウンを作製後、口腔内で試適します。
その後、前歯の唇側面をカットバックしてワックスによる内冠を作ります。
ワックス・クラウンをダブル・スキャンして製作されたジルコニアによるコーピングです。

図21
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前歯の唇側にポーセレンを築盛して完成しました。

図22
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図22~図24は、医療専門大学(大専)卒業2年後に、私の助手のひとり、王鑫麗が製作した症例です。
https://xiaolong1017.at.webry.info/201909/article_2.html

このケースは、咬合再構築の症例です。
歯牙の摩耗が激しく、咬合高径が非常に低くなっています。
まず、機能的ワックス・アップ法によって診断用ワックス・アップを行います。
その際、垂直咬合高径を仮設定します。
この診断用ワックス・アップは医者と患者が話し合う際の資料となります。


図23
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歯科医師の要望により、まずPMMA樹脂によるテンポラリー・クラウンを製作することになりました。
作業模型を製作し、半調節性咬合器に装着した状態です。

図24
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以前製作した診断用ワックス・アップを参考に、新たに咬合再構築のためのワックス・アップを行います。
このワックス・アップをダブル・スキャンし、CADソフトを使ってマージン部の設計をします。
その後、CAMの切削機を用いてPMMA樹脂を切削加工し、テンポラリー・クラウンを製作します。

ワックス・アップをダブル・スキャンして製作した場合、ワックス・アップと同じ形態に製作することができます。
咬合関係もほとんど修正する必要がありません。
クラウンの外形や排列状態もワックス・アップとほとんど変化なく製作されています。

図25
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図25~図28は、医療専門大学(大専)卒業3年後に、私の助手のひとり、郭暁琴が製作した症例です。
https://xiaolong1017.at.webry.info/201811/article_1.html

インプラントを含んだ咬合再構築の症例です。
最初に、審美と機能を考慮した理想的な排列と咬合状態をワックス・アップによって再現します。


図26
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その後、下顎のワックス・アップを参考にして、下顎のブリッジ・フレームを即時重合レジンで作ります。
即時重合レジンで製作した下顎のブリッジ・フレームをダブル・スキャンします。
その後の操作はCAD/CAMの技術よって設計され、特殊な切削加工機によりチタン合金の下顎ブリッジ・フレームが製作されます。

図27
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インプラントのアバットメントとチタン合金による下顎ブリッジ・フレームの適合状態です。
矢印の部分を見ていただければ、非常に精密に適合しているのが分かります。

図28
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前装にはハイブリッド・レジンを用いています。
完成したインプラントを含んだ咬合再構築の症例です。

今回、ご紹介した症例のすべては、医療専門大学を卒業して3年以内の若い中国の歯科技工士たちが製作しています。
彼らは、非常に真面目で、熱心に学び、上達が早いです。


図29
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CAD/CAMの技術については、中国の歯科技工所のレベルは非常に高いと思います。
また、規模が大きな歯科技工所が多いため、CAD/CAM設備も非常に進んだ機種を導入されているように思います。

図30
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ご存知のように、和田精密歯研株式会社は日本で最も有名、かつ、社員約1,200人という日本で最も規模が大きい歯科技工所です。
社歴はすでに53年とのことです。

一方、北京で最も早く設立されたという、私が勤務している北京Lelejia医学技術有限公司でも、社歴は今年20年を迎えたばかりです。
日本と比べると中国の歯科技工所は社歴が短い会社が多いようです。

また中国では、毎年、専門学校を卒業した若い歯科技工士が、沢山育っています。
それらのことを考えると、中国の歯科技工界の未来は明るく、発展する可能性が非常に大きいと私は思っています。

図31
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長いブログ記事になってしまいましたが、最後までお目通しいただきありがとうございました。
中国における歯科技工士の教育状況について、本記事を通して少しでもお分かりいただければ幸いに存じます。

今年は、これをもって最後のご報告とさせていただきます。
どうか、皆さま、令和2年の良い新年を迎えられますよう、北京の地より心よりお祈り申し上げます。

王譯平(川崎従道)拝



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